きっと、はじめての恋だった

これは、はじめて好きな人ができて、告白して、振られた、ただそれだけのお話。

僕は今まで恋愛なんて縁のないものだと思ってた。恋愛に興味がなかったわけではない。中学校や高校、大学生活では同じクラスの人達の恋愛話や色恋沙汰があり、もし彼女ができたらと想像することもあった。同じクラスの女の子をかわいいなと思ったこともあるし、友達と「あの中だったら誰がいい?」とか「この中で付き合うなら誰?」みたいな話をしたこともある。あの人いいなと思い、仲良くなりたいと思ったこともある。でも、実際に付き合いたいと思い何か行動を起こしたことはないし、その人が誰かと付き合い始めても何も感じなかったので、好きだったというわけではなかったと思う。ただ、あの人いいなと思っただけなのだろう。当時学生だった僕は、こんな自分でもいつか好きな人ができて、告白したりするのだろうと漠然と思っていた。それから時間が経過し、大学を卒業し、人を好きにならないまま数年が過ぎた頃には、僕はこの先もずっと好きな人はできないし、恋愛とか縁のないものだと考えるようになっていた。誰かと付き合ったりすることはなく、ずっと一人なのだろうと考えていた。でも、それでいいと思ったんだ。僕は大した収入もなく、一人のほうが気楽で困ることもなかったので、この先独り身でも構わないと思っていた。人を好きにならない僕にとって恋愛は遥かに遠いもので、それはファンタジー小説などにでてくる空想上の世界のようなものだった。

そんな僕にも少し気になる人ができた。はじめは笑顔がかわいい人という程度の認識でしたが、しばらくしてから彼女のことを目で追っていたり、探したりしている自分がいることに気がついた。彼女と話せると何故か嬉しくて、楽しくて、僕の中での彼女の存在が次第に大きくなっていた。僕は日が過ぎるごとにおかしくなり、彼女のことを考えると胸がどきどきして締め付けられているように痛く感じるようになった。でも、彼女と話をするときはどきどきするけど締め付けられるような痛みはなく、高揚感と幸福感で胸が包まれた。僕にはこれが一体何なのかはじめはわからなかったが、これはきっと恋で、彼女のことが好きなのだと気がついた。

好きな人ができて恋をした僕は、自分には縁のない遠い世界、ファンタジー小説の空想上の世界に突然放り込まれたかのような状態だった。僕は彼女と仲良くなりたい、一緒の時間を増やしたい、彼女をもっと知りたい、彼女のことを思う時間は日に日に増えた。だが、知らない世界で僕は何をしたらいいのかわからず、けれども何もしないことはできなくて、ただ闇雲に手探りに彼女と仲良くなれるように行動していた。

飲みに行きませんか?と誘いの Line を送るだけでも不安で、緊張して胸が苦しくなり、些細な返事が来るたびに嬉しくて、返信が遅いと不安に駆られた。二人でお酒を飲んだり、彼女を家まで送ったり、お昼ご飯を食べたりした。待ち合わせをしたときは待たせるのは悪いと思って10分前に行ったら彼女はすでにいて、僕は驚くと同時に待たせてしまった罪悪感がこみ上げて、けど会えて嬉しくて、いろいろな感情が出てきた。僕は喋るのが苦手だから一緒にいるときに彼女にはきっとつまらないなと思わせただろうけど、たまに見せてくれる笑顔がすごくかわいくて、大好きだった。

彼女への気持ちは日増しに強くなり、けれどこの気持ちをどう扱えばよいのかわからず、自分の感情や気持ちに捕われて、おそらく彼女自身のことが見えてなかったと思う。僕は相手の気持ちを察することや、距離感や付き合い方がわからないので、もしかしたら不快な思いや嫌なことを言っていたのかも知れない。おそらく言っていた。

僕は彼女への募る思いでに衝き動かされ、感情に任せて流されて、衝動的に、自分本位に気持ちを告白してしまった。

当然、僕は振られた。

彼女と関わることすべてが新鮮で幸せでどきどきして恋しくて、僕にとってあの一緒にいられる時間はかけがえのないものだった。彼女を好きになったことで、彼女の笑顔で、僕の人生は少なからず変わったと思う。彼女さえ側にいてくれれば、世界が何色でも構わないと思えた。僕はしょうもなくてくだらない人生を送ってきたけれど、その結果彼女に出会えたことは、自分の過去の間違いを許すことができるほどに幸せで、ないものと思っていた未来を見せてくれて、諦めていた人生を変えるきっかけをくれた。

僕は彼女の笑顔が好きだ。生きていてよかったと思えるぐらい本当に大好きだ。彼女の笑顔を見ると心がほっとして温まり、幸せな気持ちになる。彼女の笑顔の為ならなんでも頑張れると思えてくる。真っ直ぐにこっちを見てくる瞳も好きだ。目元が一番かわいくて、見ると心がどきどきする。そのどきどきも、彼女を見ているときは心地よかった。いつも楽しそうにしているところも好きだ。楽しくやっていこうとするその姿勢は尊敬できるし、羨ましいし、そんな彼女が大好きだ。他愛もない会話でも話せたことが嬉しくて、一緒にいられる時間は心地よくて愛おしくて恋しくて。僕は彼女のことが好きだ。

恋愛って二人がお互いに確信して、時間や空間、価値観などを共有して、相手を思いやって、譲って譲られて、二人で築いていくものだと思う。一人では成り立たない、すてきな世界だ。彼女の気持ちを思いやらず、高まる感情に駆られて行動し、僕の気持ちを衝動的に自分本位に告白した、この一連の出来事は、これは恋愛ではなくて、僕の一方的な恋だった。

これが、僕のはじめての恋。

下手くそで、身勝手で、みっともない、はじめての恋だった。